陸の涯


 陸の涯を見てみたいと思った。それは日帰りの長旅であり、幾重もの日常と交錯しながら進む非日常であった。工業地帯を抜けると突然に緑の空間が現れる。


 春の花が咲いていた。難波津と言う和歌を思い出した。東国の人間には、難波は遥かな都である。


 やがて木立を抜ける。陸の涯には海があった。陸の切れ目は海との境界であった。遥かなる海原。


対岸は空港だった。右を向けば遥かな海原だったよう思う。(写真と記憶がない)
香港行きの飛行機の上、海鳥が二羽写っている。



頻りに飛行機が降りてくる。遠くでは飛んでゆく飛行機も見えた。


水面を時折魚が舞う。(写真なし)鳥も飛んでいる。鳥は魚を狙っているのだろうか、単に低空を飛んでいるだけなのだろうか。私の目はその動作の機微を捉え切れなかった。

私は飛べも泳げもしない。海は、私の入れる世界ではない。塀の向こうの濃紺は、まるでゲーム画面の進入不能領域を示す真っ黒なテクスチャのように、空間が存在しないことを指す記号のように思えた。
あるいは、鳥や魚の有様は、別世界の住民のようであり、スポーツ中継を観ているような錯覚を起こさせた。


やがて陽は西に傾く。私は陸の涯を見届けて、また元の世界へ帰ることにした。

海にも涯があるのだろうか?
海の涯には何があるのだろう?
また別の陸があるのだろうか?

遠い日のことを思い返しながら文を綴るのは中々難しい。何年か前の春辺である。