葉桜の季節


 気付けば葉桜の季節。陸の涯を再び訪ねんとも思っていたのだが、出不精な私が満開の桜の次に見たのは、桜吹雪ではなく既に葉桜となった桜木であった。



 ご覧の通り、花弁は散り、中央の部分——昔名前を習ったはずだが思い出せない——だけが残り、葉の緑と花の残骸の桃色とが交錯する葉桜の季節である。



 散った桜を見ると安堵に似た感覚をおぼえる。それが何処からきて、どこへ抜けるべきものなのかは未だに見当もつかない。



 ただ、私は、毎年、満開の桜、吹雪となって散りゆく桜、花弁も散った葉桜…と言う移ろいの中で、何かを叫び出したくてうずうずしている。両手で口を抑えるまでもなく、飛び出す言葉を自制はしないのだが。



 春秋と言う季節程、歌を望む時期はない。秋のことは秋に記すとして、それらは、私が歌を詠めたなら、と言う空想であり願望である。私に歌を詠むべき素養はない。かといってその方向に鍛錬を積むことは、今のところ何となく指向の外にある。

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